裏パフェ
お題
「この旅行で運を全て使い果たしてしまった…」何があった?
βカロチンさんの作品
死のうと思っていたが、どうせなら最後にと旅行に行くことにした。行き先はどこでもよかったのだが、たまたまテレビで見た波照間島の海が綺麗で、そこで人生を終えるのも良いと思った。沖縄行きの片道だけの航空券を買ったが、マイルが溜まっていたのでタダになった。お金がかかっても同じことなのにと少し笑ってしまった。


飛行機に乗ると隣の席は清原和博だった。ところ狭しとでかい太ももが並び、強面の顔にさすがに緊張したが、とても気さくな方で薬物の怖さをずっと話してくれた。注射の跡をたくさん見せくれたり、もう片方の腕にある跡を指摘すると「そっちはBCGや。良い注射の方や」と、大笑いしていた。「兄ちゃん、まっすぐ生きや」と、注射の跡をしきりに掻いていたのは気になったが、その言葉は静かに僕の胸を打った。


石垣空港に着いたが波照間島に行くにはフェリーに乗らなければならない。フェリーに乗ると隣の席は清原和博だった。「なんや兄ちゃん、まだ注射の話聞きたいんか」といたづらに笑った。もしかしてと思い、宿の名前を聞いてみると一緒で、宿に向かう送迎車も一緒だった。清原は「一人旅が台無しやで」とまた子どもみたいな笑顔を見せていた。「ほら、もうすぐ着くで」と注射跡を搔きながら島を指さした。


波照間島に着き地図を開くと、宿の場所が車を使う程の距離ではなく、せっかくだからと二人で歩くことにした。波照間島は日差しが非常に強く、汗がとまらない。そんな時でも清原は「この汗、どっちの汗やと思う?」と薬物ユーモアを言ったりして、歩くことに苦はなかった。


道中、清原は放し飼いにされているヤギの声真似をすると、島中のといっても過言でない大量のヤギに囲まれてしまった。僕は少し慌てていたが、清原は「落ち着いて目を閉じてみ」と僕に言った。「兄ちゃん、このヤギが人やったとしたら、長渕さんのライブの景色はこんな感じや。さぁ目を開けてみ」と言った。目を開けると、大勢の人が僕に熱狂する風景がそこにあり、一人ひとりの生命を真正面から感じた。「な、みんな辛くとも生きとる」と、清原は大量のヤギを蹴飛ばしながら宿へ向かっていった。


宿に着くと優しい婆が出迎えてくれた。清原とは襖で簡易に間仕切りされた相部屋だった。偶然が続きますねと声をかけるも、清原は「あぁ」と表情一つ変えず、ただ一点を見つめていて様子がおかしかった。


各々部屋に戻ると清原の部屋から「うぅ..」とかすかなうめき声が聞こえた。そっと襖をあけて覗くと、清原が大量の汗をかきながら鞄から注射器を取り出していた。見てはいけないと分かっていても目を離すことはできなかった。清原は10分ほど注射器を握り目を瞑っていたが、ついに注射器を鞄に戻したのを見て、僕は涙が止まらなくなっていた。


「海いくで」と清原に誘われて日本一と言われる波照間ビーチに向かった。エメナルドグリーンの海に大はしゃぎの清原は、一目散に海に飛び込んだ。僕が浜辺で黄昏ていると、「痛!」と大きな声が聞こえた。「サンゴ礁、かったいかったい」と笑いながらも清原の足は流血していた。清原は「まぁ生きてりゃ血ぐらいでるわな」と再び海に戻っていった。


生きてりゃ血ぐらいでるか、と思い直して僕は浜辺で帰りの航空券を買った。
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2点酔歩
2点電球金魚
4点ンゴ
2点頭脳まさき
2点遠くを見ている
3点八子八百
2点セパ博
4点寝癖の宇宙
4点Mt.長谷川
4点モモス
4点わからない
4点うんこザウルス
2点みささぎ
4点guniguni
4点クライムクライム
3点ゆうとってゆうとるやん
2点武甕雷
4点にゅわ
2点はさあかた
3点森山
3点たきざき
2点板野
3点大型ケミカル
2点機機械
3点メメント茂里町
2点watao
2点やおき
2点
2点渡利 巣手呂
2点ハプティクス
3点フェスタ
4点臭い紅茶
2点虎猫
3点吉永
3点魂の裏切りの夜
3点と鞠ついで
4点手すり野郎
2点ツイタチ
4点時間
2点凡災
2点どぶ
3点イタリア猪
4点たんじぇんと